2014年のスタディツアーの際のNCCCの子ども達への歯科治療ボランティア(「HG通信」32号)に引き続き、2015年にはチェイ小学校709名の歯科検診を依頼され実施しました。春から参加者を募集し、9名(久保、椋梨、寺浦、穂積、青木、神谷、山本、岡、上垣)が集まり、なんとか検診できる体制が整いました。9名の内6名はアンコールワットが初めてで、観光もしたいし、マラソンにも参加する。このため他のツアーメンバーが観光している時間のうち、午前半日、午後半日をボランティアの時間に充てました。
現地で教員に歯科検診の必要性を説明して欲しいと言われたのには驚きましたが、むし歯や歯周病と全身疾患の因果関係と、集団で検診する意義を説明したら、納得されました。何か質問はないかとの問いに、1人の女性教員が「検診の必要性は理解できたが、来年も来てくれるのか?」と聞いてきました。我々の答えはOfcourseYes!でした。Yesと言った以上、この業務は継続させる覚悟です。検診業務は、日本では絶対行わない野外での検診となりました。歯科検診は、検診する術者が記号を伝え、記録者がそれを書き写す2人一組の作業のため、周囲からの雑音が入らない静かな環境が必要になります。検診初体験のカンボジアの子ども達が、果たして思い通りに口を開け、静かに、行儀良く順番待ちしてくれるのか?しかも屋外で…と、いろいろ心配していましたが、杞憂に過ぎませんでした。チェイ小学校の子ども達は、日本の子ども達よりずっとお行儀良く、協力的でした。
今回の検診をどのように進めるかは日本でもかなり議論しました。その結果、別紙のような2枚一組のカーボン複写式検診票を作製し、一部は小学校に保管、一部は我々が持ち帰り、データを分析することにしました。クメール語検診票の作製は椋梨先生とNCCCスタッフの礒邊さんに協力していただきました。活動は単に検診業務だけでなく、むし歯予防にとって大切なブラッシング指導と公衆衛生教育を行うことも目標としていたので、歯科衛生士の岡さんの参加は心強く、歯科検診と同時平行で各教室を回り、手作りの教育用媒体を使って、ブラッシング指導を行っていただきました。媒体は、模造紙に絵とクメール語の説明文を書いたもので、子供にも良くわかると好評でした。岡さんは日本で練習していたクメール語でのブラッシング指導を行いました。歯ブラシは1人に2本が行き渡るよう、日本から持ち込みました。カンボジアでは歯磨きをしたことがないという子もおり、ブラッシングの仕方が解らない子供がほとんどでした。
今回の検診結果を下記に示します。世界的なむし歯の評価基準に、DMFT(1人平均むし歯数)という数値があります。D(未処置う蝕歯)とM(喪失歯)とF(う蝕が原因で処置された歯)の総和を人数で割った数、すなわち1人あたりのむし歯経験値です。幼稚園から小6までの対象者680人のデータからはDMFTが7.4となりました。これは乳歯のむし歯治療がほとんど行われていないのが原因です。小6(12才)のDMFTは4.0となり、日本の小6が1.0以下なので、日本の4倍以上のむし歯数です。しかも日本の場合はほとんどがFの処置歯であるのに対して、チェイ小学校は手つかずのむし歯DとMでした。全体のむし歯罹患率は90%で、実に10人に9人がむし歯ということになります。そしてむし歯は治療されず、放置されていることを示します。これは50年前の高度成長期の頃の日本と似たような状況です。
カンボジアでむし歯が多い理由の一つに、学校内に駄菓子屋があり、子ども達が常に甘いものを口にしていることがあげられます。そして公衆衛生教育がされておらず、家庭や学校などで食後の歯ブラシの習慣がないこと、上水道が日本のように自由に使えない環境面も考慮すべきことと考えます。
我々はHGデンタル班として、今後もニーズがある限りこの活動を続けて参ります。
HGデンタル班でボランティア活動をして下さる歯科関係者を募集しています。協力していただける方はHG事務局まで連絡して下さい。今年もアンコールワットマラソン&スタディツアー(12月1日~5日あるいは6日)での現地活動になります。
歯ブラシなどの支援物資を提供していただいたタカラベルモント(株)、ライオン(株)、SUNSTAR(、株)ビーブランドメディコ、(株)トミヤの方々に感謝申し上げます。