2017年1月から開始した本プロジェクトも1年経ち、2018年1~6月はカンボジア教育・青年・スポーツ省(以下、教育省)の技術委員会メンバー(以下、TC)が黙々と指導書のドラフトを作成するという期間でした。ワークショップ等があまりない静かな期間ですが、この間の課題・問題は様々でした。
2017年12月にTC達は中学1年生の初稿を提出していました。ある程度フォーマットを決めていたにも関わらず、提出された各領域・種目の内容は「ばらばら」でした。プロジェクト・マネージャーとして、この「ばらばら」がとても役に立ちました。TCが12名もいると、12名の知識には差が出てきます。全員が一緒だと、知識を持っているTCの意見に流されて、理解していないTCは理解した振りをしてしまいます。各人に領域・種目を担当してもらい、各々の理解に基づいてドラフトを書いてもらうことで、一人ひとりの理解度を確認することができました。
2018年1月に、当初は予定していませんでしたが、TC達と個別に協議することにしました。各々の意見の違いや考え方を聞き出すことによって、どのように修正していく必要があるかを各人と確認し合えました。一人ひとりの意見が聞き出せたのは良かったのですが、中には、個別に何を話しているのかと、疑心暗鬼になる人もいました。今回の個別協議の趣旨をしっかり説明し納得してもらえました。
2018年2月12日~14日に東京学芸大学の鈴木聡准教授を招聘して、指導書作成ワークショップを開催しました。このワークシップにより、TCが全員で改めて協議することができ、これからの改訂方法について共通認識を図ることができました。また、お互いが現時点での指導書案の違いを認識し、同じ書き方で改訂をしていくべきことを一緒に考えることができました。このワークショップ後、5月18日までに中学1、2、3年生の全ての指導書案を提出することを目標としました。
3月には、プノンペン市、バッタンバン州、スヴァイリエン州のモデル中学校のモニタリングを実施しました。先生達は、指導書のドラフトを用いながら、必死に年間計画、単元計画、指導案を作成して授業をしていましたが、指導書の内容を間違って理解したまま作成した先生もいました。一方で、スヴァイリエン州のバサック中学校では、指導書に従い、先生が自分で学校にあるもので卓球台と卓球のラケットを作って授業をしていました。教具がなくても新しい体育を進めていくことができることを改めて証明してくれました。
全学年の指導書案提出目標だった5月18日の時点で提出された指導書案はまだ20%程度でした。日本体育大学の岡出美則教授を招聘して5月21日~23日に開催したワークショップで、全学年の内容を確認したかったのですが計画を変更し、各領域・種目間の書き方の相違の確認、「態度・協調性」を教える際の教師行動、学びのための評価、導入すべきイラストの留意点といった内容にしました。技能面は目に見えますが、「態度」や「協調性」を評価するのは難しく、1クラス約40人の授業で全生徒の成長を評価するには工夫が必要であり、技術が必要です。それをどのように指導書に書き込んでいくかをTC達は熱心に考えていました。
2018年9月。指導書の完成を目標としている月までに、できる限り、現場で体育を教えている先生達にとって分かりやすい指導書を作るため、プノンペン市、バッタンバン州、スヴァイリエン州で指導書を紹介するワークショップと、TCメンバーに対する3回のワークショップの1回1回に、適切な情報を収集し提供していく必要があると思っています。プロジェクトに関わる全てのメンバーが、「カンボジア全国の中学生達が体育を通して、態度・知識・技能・協調性を学べるよう、分かりやすく、読みやすい指導書を作成する」ことを共通の目標として、2018年後半はとても充実した半年となることを期待しています!