2012年4月に赴任して初めての仕事は、JICA草の根技術協力・小学校体育科教育普及事業・第3フェーズの申請書を書くことでした。それから7年足らずの間に、SportforTomorrowでの中学校体育科学習指導要領の作成支援、JICA草の根技術協力事業で実施中の中学校体育科指導書作成支援、カンボジア教育省の独自予算による高校体育科指導書作成のための本邦研修の調整・同行、さらに中学・高校の体育科教員養成のための国立体育・スポーツ研究所(NIPES)の4年制大学化事業の準備と、事業はより幅を広げより深化してきました
この間、最も苦労したのは人材育成でした。そもそも私より20歳ほど年上である教育省の方たちに何かを教えるということはとても難しいことでしたし、私は元々体育が専門ではなかったので一から勉強しなくてはなりませんでした。そのため、専門家が来られた時にはわからないことはわかるまでとことん聞くようにしましたが、現場を預かるプロジェクト・マネージャーとして、日本の体育の専門知識が本当にカンボジアに適しているのかどうかを判断するのは大きな責任を感じます。現在、中学校体育科の指導書を作成していますが、教育省の担当者が書いてきたドラフトを確認して修正する過程で、それが果たしてその担当者が作成したものと言えるのか、私が押し付けているものではないのかと悩むことがあります。それで、まず彼らから説明してもらい、理解できなければ、何度も質問します。具体的な状況で実際に体育の授業が実施可能かどうかを確認し、納得できれば、私が考えていたものと違っていても受け入れるようにしています。ありがたいことに、激論を交わしても関係が壊れずに続けられているのは、対話を大事にして信頼関係をゆっくり築いてきたからだと思います。
こうした苦労を重ねた結果、体育の授業を受けた子ども達が、教育の目的である「態度・知識・技能・協調性」を学べていると感じるときが一番うれしい瞬間です。これまでは、単調な徒手体操を、あまり笑顔や真剣さがないままやっていた子ども達が、サッカーや陸上、器械体操等を楽しそうにしていたり、自分の記録に真剣にチャレンジしたり、友だちと助け合って準備や試合をしている姿を実際に見ることはもちろん、Facebookで見るだけでも、教育省と一緒に築いてきたものが実を結んでいることを感じることができます。カンボジア全国に新しい体育を普及するという壮大な目標に向かって、教育省が自力でできるところを一歩ずつ歩んでいけるよう、私達がサポートできるところに取り組んでいきたいと思います。